「最強のビジネスモデル」はいまも現役バリバリです

2021.09.16


(2021年9月16日メルマガより)



前回のメルマガでは、任天堂について書かせていただきました。


その際、ライバル会社であるソニーのこともちらりと書かせていただきました。


ソニーの復活



コロナ禍の巣ごもり需要でゲーム機好調のソニーですが、過去最高益の更新は、それだけが要因ではありません。

ゲーム機の販売を中心に、ゲームソフト、映画、音楽などのコンテンツを繰り返し活用するエコシステム(生態系)ともいうべきビジネスモデルを作り上げており、サブスクをうまく使うことで、収益を上げています。

ソニー復活を強く印象付ける昨今であり、株式時価総額約15兆円は、日本企業3位、実に立派なものです。

もっとも、創業者がソニーに憧れていたといわれるアップルは、今や株式時価総額250兆円以上、世界トップの企業です。

ソニーが「アップルになり損ねた企業」と揶揄されるのも仕方ないのかもしれません。

アップルの創業者スティーブ・ジョブズが、ソニーを参考にしたのは、その先進的なものづくりの姿勢だけではないようです。

ソニーは、昔から、自社商品群でエコシステムを作り上げようとする意思があり、ソニー製品同士の互換性やサービス付加に積極的でした。

もともと開発力は強くても販売力に難のあったソニーは、販売力のあるパナソニックに何度も煮え湯を飲まされてきました。

そこで考えたのが、ソニーファンの囲い込みです。コアなファンをがっちりと固めていれば、新規顧客の獲得に躍起にならなくても済みます。

製品を売り切るだけでは、囲い込みにつながりません。ソニーは、製品同士の連携や、付加サービスを強化、充実させ、製品を購入した後の顧客の満足度、充足度を高めようとしました。

ソニーが映画ビジネスに進出したのも、当初は、テレビやオーディオ製品を充実させるためのコンテンツビジネスを始めるという意図があったはずです。

この考えは、アップルにも引き継がれています。アップルは、製品同士の連携やサービスの提供を強化しており、アップル製品でなければ享受できないサービスを作ることに熱心です。

私はiPhoneユーザーですが、他のスマホに変えようとは思いません。というか、今さら、とても切り替える気になりません。iPhoneの二重三重に張り巡らされたサービスのネットワークに一度入ると、これがゼロになる事態を想像するだけでゾッとします。

このサービスのネットワークは、多数の外部事業者によって提供されているので、アップル側が誘導しなくても自己増殖していきます。これからも拡大していくことでしょう。

アップルの成功は、スマホという巨大な需要を持つ商品を中心にエコシステムを作ることができたことです。

これが、ゲーム機市場という規模でビジネスを展開するソニーとの差になっています。


最強のビジネスモデル


ソニーやアップルが志向する顧客の囲い込みは、古典的なビジネスモデル論のなかでは、「最強のビジネスモデル」とよく採り上げられています。

例によく挙がるのは、カミソリメーカーのジレットです。

いわゆる安全カミソリの柄の部分を無料、または安価で配布し、替え刃を継続的に販売することで収益を得る方法は「ジレットモデル」ともいわれて、その有効性が認められてきました。

日本を代表するメーカーであるキヤノンも、ジレットモデルの導入に腐心してきた企業です。

キヤノンの祖業は、カメラの製造販売です。しかし、カメラの販売だけでは大して儲からず、写真フィルムメーカーばかり潤うことに悔しい思いをしていたようです。

そこでキヤノンは、プリンターやコピー機に進出しました。これらの機器を安価で販売して顧客を増やし、インクやトナーを継続販売することで儲けるビジネスモデルを作りました。念願のジレットモデルです。

このビジネスの成功が、キヤノンの規模拡大につながり、日本を代表するメーカーに飛躍する原動力となりました。

キヤノンばかりではありません。ジレットモデルの有効性は、あちこちの業界や産業でみられます。

例えば、NTTドコモやauなど携帯電話のキャリアは、携帯端末を安く売り、月々の通信料で儲けるジレットモデルです。

ソフトバンクが大赤字でも参入し、一定の顧客数を獲得すると、急に大人しくなったのは、儲かっているからに他なりません。

それは楽天も、参入しようと思うはずですよ。

規模は小さくなりますが、私が昔、所属していた日本酸素(大陽日酸)も、飛躍したきっかけは、酸素を瓶で売る商売から、酸素製造装置そのものを顧客の敷地内に設置し継続販売する仕組みを作ったことだといいます。

ぜひ、皆さんも、知っている業界で、ジレットモデルを探してみてください。


ジレットモデルが成立する3つの条件


ジレットモデルが成立するのは、次の3つの条件がある時です。

1.継続的な需要がある

2.付加サービスのコストが小さい

3.他への切り替えがしにくい


1の継続的な需要があるものとは、水道や電気、通信などのインフラに関するもの。食料品、飲料などの食品。その他、生活必需となる日用消耗品などでしょうか。

ジレットの替え刃はまさに日用消耗品です。

そう思うと、キヤノンのインクやトナーも日用消耗品ですし、携帯電話の通信料はインフラです。

日本酸素の酸素など特殊ガスは、日用品ではありませんが、一定の工場にとっては必需品となります。

この他、教育や人材育成に関すること、心身の健康に関すること、資産形成に関すること、趣味嗜好に関することなど、日用品ではなくても、継続的な必需となるケースはあるでしょう。

みなさん、ご自身で探してみてください。


IT系企業とジレットモデルは相性がいい


2の付加サービスのコストが小さいというのは、比較的ということです。

ジレットの替え刃の継続販売は、柄ごと買うよりは安い価格で提供できるので成り立ちます。柄ごと買ったても大して変わらない値段ならば、替え刃だけ買おうなんて思わないでしょう。

そのためには、付加する消耗品の部分が、大量生産することで低コスト化できるようなものがビジネス化しやすいということになります。

もっというと、固定費が大きくても、変動費が小さいものが成立しやすくなります。

例えば、土地や建物です。最初にビルを建てるのに莫大な投資が必要になりますが、いったん完成してしまうと、維持費は大した額ではありません。何年で初期費用を回収できるかという計算は必要ですが、需要さえ見込むことができれば、確実に収益を得ることができます。

携帯電話のキャリアも同じです。参入時に基地局の建設など莫大な投資が必要になるものの、体制ができてしまえば、顧客数を増やすごとに確実に収益が上がります。

GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)などのIT企業が、次々と定額サービスを展開しているのも、デジタルサービスの変動費が小さいからに他なりません。

例えば、マイクロソフトの作業ソフトレンタルビジネスです。

同社は、エクセルやワード、パワーポイントなどの作業ソフトを売り切りにするのではなく、一定額でレンタルするサービスに切り替えようとしています。

売り切りにすると、収益はその1回切りとなりますが、レンタルだと使い続けられる限り、収益が上がります。

このビジネスが可能になったのは、ネットワーク技術が進展したことで、クラウド上の作業ソフトをストレスなく使用してもらえるようになったからです。

つまり、マイクロソフト側にとって、ソフトを一人一人のユーザーに提供するコストはほぼゼロです。


アマゾンが得意とするクラウドストレージの貸与ビジネスも、一度、データセンターを作ってしまえば、あとはたいしたコストはかかりません。

GAFAMなどIT系ビジネスと、ジレットモデルは、非常に好相性だということができます。


顧客囲い込みには胡散臭さがつきまとう


3の他社へ切り替えがしにくいというのも、重要な点です。

ジレットの柄に他社の替え刃がつけられるならば、ジレットの先行投資(顧客開拓活動)に他社がただ乗りしてもいいということになっていまいます。これではビジネスが成り立ちません。

だから消耗品の場合、互換性をなくすというのが基本となります。

キヤノンなどのプリンターメーカーが、互換性のある他社インクの排除に神経質になるのは、当然のことです。

しかし、ユーザーにも「ばか高いインクで儲けやがって」という不満があります。

そうなんですね。顧客の囲い込みには、胡散臭さが付きまといます。

いくらキヤノンが「インクをこの値段にしないとビジネスが成り立たない」と言っても、実際は高すぎるだろうと、多くの人が思っています。

実をいうと、私は、ソニーにもアップルにも、胡散臭さを感じています。私は、囲い込まれたくなんてありません。商品選択は自由にしたい。

それなのに、互換性がないとか、アプリが使えなくなるとか、勝手な理由で選択を阻害されるのは、本意ではありません。

最近は猫も杓子もサブスク(定額)ビジネスを始める風潮にありますが、違うなーと思うのが、定額収入にすれば安定収入になるし儲かるぜ、という理由だけで始めたんじゃないかと思えるサービスが多いことです。

そんなユーザー無視のサブスクビジネスなんて百害あって一利なしですよ。


囲い込み過ぎるとダメになる


ランチェスター戦略には、シェアを獲りすぎるとだめになるという教えがあります。

トップ企業だからといって、100%のシェアを獲ってしまうのは危険です。具体的には、シェアは、73.9%まで。それ以上とると、むしろ不都合がおきます。

ひとつは、選択肢のない市場に顧客がうんざりしてしまうこと。ひとつは、競争のない状況が企業力を劣化させてしまうこと。

いずれにしろ、適切な企業数と競争状況が、健全な企業活動につながるという考えです。


実際のところ、カミソリぐらいなら、全部買い替えても負担にならない値段なので、今の時代、囲い込みが成立するわけではありません。

が、プリンターや携帯電話では、初期費用やサービス互換の問題で囲い込みが出来上がり、その不自由が顧客のストレスになってしまいます。

携帯電話料金が高止まりしていると多くのユーザーが不満を抱くのは自然なことです。

プリンターも同じ。互換性のある半額以下のインクを使おうと思いますよね。最近は、キヤノンもそれに気づいたのか、大容量インク搭載プリンターを開発するなど、インクで儲けるビジネスの見直しを模索しているようです。

顧客の囲い込みが、ビジネスとして正当かどうかは問題ではありません。顧客が、囲い込み状況に「フェアじゃない」と不満を抱けば、そのビジネスは劣化していきます。

顧客にそんな不満を抱かせないためには、徹底して、顧客の満足度、充足度を高めていかなければなりません。


有料の幽霊会員に退会を促すネットフリックス


アマゾンを見習ってください。競争相手をつぶしまくるやり方には、議論があるところですが、少なくとも顧客には報いようとしています。

同社は「利益は株主に還元しない。顧客に還元する」という考えを持っているそうで、儲けるぐらいなら安く売るという方針です。

アマゾンプライムサービスなど、月500円で、配送料無料、動画見放題、音楽聞き放題、電子書籍読み放題、画像保存し放題などといったてんこ盛りのサービスを展開しており、しかも日々、サービスを付加しようとしています。

これだけサービスを並べられては、大してアマゾンを利用しない人でも、月500円ぐらいならいいかと思ってしまうでしょう。

動画配信ビジネスで、アマゾンのライバルとなっているネットフリックスもそうです。同社は、作品制作のために借金を重ねるという自転車操業状態を長く続けていますが、株式時価総額は、約27兆円。株式市場は、動画配信ビジネスを、日本のトヨタと同等クラスと判断しているわけですよ。

ネットフリックスの有料会員は世界で2億人超。コロナの巣ごもり需要が追い風になっています。同社は、有料会員を事業のパートナーと捉えており、個人ごとに動画を視聴する内容やタイミングを測定しており、作品づくりの参考にしています。

だから、お金を払っているのに視聴しない幽霊会員は、事業を成長するために資するところがないと判断しているようで、退会を促すメールを送付すると発表しています。

普通、お金だけ払って知らん顔をしている顧客がいることはラッキーだと思いたくなるはずですが、ネットフリックスは、それよりも顧客との協業関係、緊張関係を保っていたいと考えているのでしょう。

顧客囲い込みが、単なる利益確保の手段ではなく、自社事業の充実発展を目指すためのものだとするネットフリックスの姿勢は、まことに理想的です。

見よう見まねでサブスクビジネスを始める事業者には、この姿勢こそ見習ってほしいと思います。


アナログ企業でもITを組み合わせることでジレットモデルは導入できる


IT企業以外でも、自社製品にIT技術を組み合わせることで、ジレットモデルを導入することが容易になってきました。

その典型が、アメリカのペロトン・インタラクティブです。


同社は、2012年創業のフィットネス機器の会社です。約2千ドルの自宅用フィットネスバイクが、巣ごもり需要もあいまって大人気で、今期の売上高予測は、約4000億円とも言われています。

2千ドルといえば、約22万円です。けっこういい値段ですね。

もちろん、ネットワーク仕様になっていて、運動の記録はすべて残ります。スマホにつなぐこともできます。

ただ、ペロトンが人気なのは、機器の性能だけではありません。同社は、フィットネスバイクに向けて、月額39ドルで、フィットネスの動画を配信しており、自宅にいながらレッスンを受けられるようになっています。

一流インストラクター陣やアスリート、芸能人が参加するこの動画がとにかく人気で、動画番組見たさにフィットネスバイクを購入する人もいるらしい。(動画視聴のみのサービスもあるそうですが)

インストラクターは、性別、年齢、人種など様々なタイプがいて、多様なアメリカ社会の状況に応じています。

また時間を決めてライブでレッスンを受けられる番組もあり、大勢の人が同じ時間に運動をする場面もあります。

その際には、ユーザー同士でコミュニケーションをとれるようになっており、お互いに励ましあったりするようです。

いまは、ペロトンは一種のブームになっていて「宗教的だ」という評価さえあります。

要するに、ペロトンにとって、2千ドルのバイクが、カミソリの柄です。月額39ドルの動画配信が、替え刃の部分にあたります。

先ほどの、ジレットモデル成立の条件でいうと

1.フィットネス、ヘルスケアという継続需要がある。

2.付加サービスが動画配信なので、変動費が小さい

3.2千ドルのバイクが入口となっていること、ユーザー同士のコミュニティがあることから、他社へ切り替えしにくい

となり、うまく考えられています。

ちなみに、ビジネスの中心は、動画配信やファン同士のコミュニティですから、この部分に対する投資が、成功の肝となります。これを単なる付加サービスと捉えれば、事業は大きくなりません。ペロトン側は、よくわかっていることでしょうが。


このように、IT技術が進展することで、実は、古典的なビジネスモデルが導入しやすくなっています。

特に、ジレットモデルの有効性は、いまも衰えていません。

今のビジネスをを進化発展させようと思う人、これからビジネスを始めようと思う人は、ぜひ、このビジネスモデルを研究し、導入を検討していくべきだと思います。







(2021年9月16日メルマガより)



前回のメルマガでは、任天堂について書かせていただきました。


その際、ライバル会社であるソニーのこともちらりと書かせていただきました。


ソニーの復活



コロナ禍の巣ごもり需要でゲーム機好調のソニーですが、過去最高益の更新は、それだけが要因ではありません。

ゲーム機の販売を中心に、ゲームソフト、映画、音楽などのコンテンツを繰り返し活用するエコシステム(生態系)ともいうべきビジネスモデルを作り上げており、サブスクをうまく使うことで、収益を上げています。

ソニー復活を強く印象付ける昨今であり、株式時価総額約15兆円は、日本企業3位、実に立派なものです。

もっとも、創業者がソニーに憧れていたといわれるアップルは、今や株式時価総額250兆円以上、世界トップの企業です。

ソニーが「アップルになり損ねた企業」と揶揄されるのも仕方ないのかもしれません。

アップルの創業者スティーブ・ジョブズが、ソニーを参考にしたのは、その先進的なものづくりの姿勢だけではないようです。

ソニーは、昔から、自社商品群でエコシステムを作り上げようとする意思があり、ソニー製品同士の互換性やサービス付加に積極的でした。

もともと開発力は強くても販売力に難のあったソニーは、販売力のあるパナソニックに何度も煮え湯を飲まされてきました。

そこで考えたのが、ソニーファンの囲い込みです。コアなファンをがっちりと固めていれば、新規顧客の獲得に躍起にならなくても済みます。

製品を売り切るだけでは、囲い込みにつながりません。ソニーは、製品同士の連携や、付加サービスを強化、充実させ、製品を購入した後の顧客の満足度、充足度を高めようとしました。

ソニーが映画ビジネスに進出したのも、当初は、テレビやオーディオ製品を充実させるためのコンテンツビジネスを始めるという意図があったはずです。

この考えは、アップルにも引き継がれています。アップルは、製品同士の連携やサービスの提供を強化しており、アップル製品でなければ享受できないサービスを作ることに熱心です。

私はiPhoneユーザーですが、他のスマホに変えようとは思いません。というか、今さら、とても切り替える気になりません。iPhoneの二重三重に張り巡らされたサービスのネットワークに一度入ると、これがゼロになる事態を想像するだけでゾッとします。

このサービスのネットワークは、多数の外部事業者によって提供されているので、アップル側が誘導しなくても自己増殖していきます。これからも拡大していくことでしょう。

アップルの成功は、スマホという巨大な需要を持つ商品を中心にエコシステムを作ることができたことです。

これが、ゲーム機市場という規模でビジネスを展開するソニーとの差になっています。


最強のビジネスモデル


ソニーやアップルが志向する顧客の囲い込みは、古典的なビジネスモデル論のなかでは、「最強のビジネスモデル」とよく採り上げられています。

例によく挙がるのは、カミソリメーカーのジレットです。

いわゆる安全カミソリの柄の部分を無料、または安価で配布し、替え刃を継続的に販売することで収益を得る方法は「ジレットモデル」ともいわれて、その有効性が認められてきました。

日本を代表するメーカーであるキヤノンも、ジレットモデルの導入に腐心してきた企業です。

キヤノンの祖業は、カメラの製造販売です。しかし、カメラの販売だけでは大して儲からず、写真フィルムメーカーばかり潤うことに悔しい思いをしていたようです。

そこでキヤノンは、プリンターやコピー機に進出しました。これらの機器を安価で販売して顧客を増やし、インクやトナーを継続販売することで儲けるビジネスモデルを作りました。念願のジレットモデルです。

このビジネスの成功が、キヤノンの規模拡大につながり、日本を代表するメーカーに飛躍する原動力となりました。

キヤノンばかりではありません。ジレットモデルの有効性は、あちこちの業界や産業でみられます。

例えば、NTTドコモやauなど携帯電話のキャリアは、携帯端末を安く売り、月々の通信料で儲けるジレットモデルです。

ソフトバンクが大赤字でも参入し、一定の顧客数を獲得すると、急に大人しくなったのは、儲かっているからに他なりません。

それは楽天も、参入しようと思うはずですよ。

規模は小さくなりますが、私が昔、所属していた日本酸素(大陽日酸)も、飛躍したきっかけは、酸素を瓶で売る商売から、酸素製造装置そのものを顧客の敷地内に設置し継続販売する仕組みを作ったことだといいます。

ぜひ、皆さんも、知っている業界で、ジレットモデルを探してみてください。


ジレットモデルが成立する3つの条件


ジレットモデルが成立するのは、次の3つの条件がある時です。

1.継続的な需要がある

2.付加サービスのコストが小さい

3.他への切り替えがしにくい


1の継続的な需要があるものとは、水道や電気、通信などのインフラに関するもの。食料品、飲料などの食品。その他、生活必需となる日用消耗品などでしょうか。

ジレットの替え刃はまさに日用消耗品です。

そう思うと、キヤノンのインクやトナーも日用消耗品ですし、携帯電話の通信料はインフラです。

日本酸素の酸素など特殊ガスは、日用品ではありませんが、一定の工場にとっては必需品となります。

この他、教育や人材育成に関すること、心身の健康に関すること、資産形成に関すること、趣味嗜好に関することなど、日用品ではなくても、継続的な必需となるケースはあるでしょう。

みなさん、ご自身で探してみてください。


IT系企業とジレットモデルは相性がいい


2の付加サービスのコストが小さいというのは、比較的ということです。

ジレットの替え刃の継続販売は、柄ごと買うよりは安い価格で提供できるので成り立ちます。柄ごと買ったても大して変わらない値段ならば、替え刃だけ買おうなんて思わないでしょう。

そのためには、付加する消耗品の部分が、大量生産することで低コスト化できるようなものがビジネス化しやすいということになります。

もっというと、固定費が大きくても、変動費が小さいものが成立しやすくなります。

例えば、土地や建物です。最初にビルを建てるのに莫大な投資が必要になりますが、いったん完成してしまうと、維持費は大した額ではありません。何年で初期費用を回収できるかという計算は必要ですが、需要さえ見込むことができれば、確実に収益を得ることができます。

携帯電話のキャリアも同じです。参入時に基地局の建設など莫大な投資が必要になるものの、体制ができてしまえば、顧客数を増やすごとに確実に収益が上がります。

GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)などのIT企業が、次々と定額サービスを展開しているのも、デジタルサービスの変動費が小さいからに他なりません。

例えば、マイクロソフトの作業ソフトレンタルビジネスです。

同社は、エクセルやワード、パワーポイントなどの作業ソフトを売り切りにするのではなく、一定額でレンタルするサービスに切り替えようとしています。

売り切りにすると、収益はその1回切りとなりますが、レンタルだと使い続けられる限り、収益が上がります。

このビジネスが可能になったのは、ネットワーク技術が進展したことで、クラウド上の作業ソフトをストレスなく使用してもらえるようになったからです。

つまり、マイクロソフト側にとって、ソフトを一人一人のユーザーに提供するコストはほぼゼロです。


アマゾンが得意とするクラウドストレージの貸与ビジネスも、一度、データセンターを作ってしまえば、あとはたいしたコストはかかりません。

GAFAMなどIT系ビジネスと、ジレットモデルは、非常に好相性だということができます。


顧客囲い込みには胡散臭さがつきまとう


3の他社へ切り替えがしにくいというのも、重要な点です。

ジレットの柄に他社の替え刃がつけられるならば、ジレットの先行投資(顧客開拓活動)に他社がただ乗りしてもいいということになっていまいます。これではビジネスが成り立ちません。

だから消耗品の場合、互換性をなくすというのが基本となります。

キヤノンなどのプリンターメーカーが、互換性のある他社インクの排除に神経質になるのは、当然のことです。

しかし、ユーザーにも「ばか高いインクで儲けやがって」という不満があります。

そうなんですね。顧客の囲い込みには、胡散臭さが付きまといます。

いくらキヤノンが「インクをこの値段にしないとビジネスが成り立たない」と言っても、実際は高すぎるだろうと、多くの人が思っています。

実をいうと、私は、ソニーにもアップルにも、胡散臭さを感じています。私は、囲い込まれたくなんてありません。商品選択は自由にしたい。

それなのに、互換性がないとか、アプリが使えなくなるとか、勝手な理由で選択を阻害されるのは、本意ではありません。

最近は猫も杓子もサブスク(定額)ビジネスを始める風潮にありますが、違うなーと思うのが、定額収入にすれば安定収入になるし儲かるぜ、という理由だけで始めたんじゃないかと思えるサービスが多いことです。

そんなユーザー無視のサブスクビジネスなんて百害あって一利なしですよ。


囲い込み過ぎるとダメになる


ランチェスター戦略には、シェアを獲りすぎるとだめになるという教えがあります。

トップ企業だからといって、100%のシェアを獲ってしまうのは危険です。具体的には、シェアは、73.9%まで。それ以上とると、むしろ不都合がおきます。

ひとつは、選択肢のない市場に顧客がうんざりしてしまうこと。ひとつは、競争のない状況が企業力を劣化させてしまうこと。

いずれにしろ、適切な企業数と競争状況が、健全な企業活動につながるという考えです。


実際のところ、カミソリぐらいなら、全部買い替えても負担にならない値段なので、今の時代、囲い込みが成立するわけではありません。

が、プリンターや携帯電話では、初期費用やサービス互換の問題で囲い込みが出来上がり、その不自由が顧客のストレスになってしまいます。

携帯電話料金が高止まりしていると多くのユーザーが不満を抱くのは自然なことです。

プリンターも同じ。互換性のある半額以下のインクを使おうと思いますよね。最近は、キヤノンもそれに気づいたのか、大容量インク搭載プリンターを開発するなど、インクで儲けるビジネスの見直しを模索しているようです。

顧客の囲い込みが、ビジネスとして正当かどうかは問題ではありません。顧客が、囲い込み状況に「フェアじゃない」と不満を抱けば、そのビジネスは劣化していきます。

顧客にそんな不満を抱かせないためには、徹底して、顧客の満足度、充足度を高めていかなければなりません。


有料の幽霊会員に退会を促すネットフリックス


アマゾンを見習ってください。競争相手をつぶしまくるやり方には、議論があるところですが、少なくとも顧客には報いようとしています。

同社は「利益は株主に還元しない。顧客に還元する」という考えを持っているそうで、儲けるぐらいなら安く売るという方針です。

アマゾンプライムサービスなど、月500円で、配送料無料、動画見放題、音楽聞き放題、電子書籍読み放題、画像保存し放題などといったてんこ盛りのサービスを展開しており、しかも日々、サービスを付加しようとしています。

これだけサービスを並べられては、大してアマゾンを利用しない人でも、月500円ぐらいならいいかと思ってしまうでしょう。

動画配信ビジネスで、アマゾンのライバルとなっているネットフリックスもそうです。同社は、作品制作のために借金を重ねるという自転車操業状態を長く続けていますが、株式時価総額は、約27兆円。株式市場は、動画配信ビジネスを、日本のトヨタと同等クラスと判断しているわけですよ。

ネットフリックスの有料会員は世界で2億人超。コロナの巣ごもり需要が追い風になっています。同社は、有料会員を事業のパートナーと捉えており、個人ごとに動画を視聴する内容やタイミングを測定しており、作品づくりの参考にしています。

だから、お金を払っているのに視聴しない幽霊会員は、事業を成長するために資するところがないと判断しているようで、退会を促すメールを送付すると発表しています。

普通、お金だけ払って知らん顔をしている顧客がいることはラッキーだと思いたくなるはずですが、ネットフリックスは、それよりも顧客との協業関係、緊張関係を保っていたいと考えているのでしょう。

顧客囲い込みが、単なる利益確保の手段ではなく、自社事業の充実発展を目指すためのものだとするネットフリックスの姿勢は、まことに理想的です。

見よう見まねでサブスクビジネスを始める事業者には、この姿勢こそ見習ってほしいと思います。


アナログ企業でもITを組み合わせることでジレットモデルは導入できる


IT企業以外でも、自社製品にIT技術を組み合わせることで、ジレットモデルを導入することが容易になってきました。

その典型が、アメリカのペロトン・インタラクティブです。


同社は、2012年創業のフィットネス機器の会社です。約2千ドルの自宅用フィットネスバイクが、巣ごもり需要もあいまって大人気で、今期の売上高予測は、約4000億円とも言われています。

2千ドルといえば、約22万円です。けっこういい値段ですね。

もちろん、ネットワーク仕様になっていて、運動の記録はすべて残ります。スマホにつなぐこともできます。

ただ、ペロトンが人気なのは、機器の性能だけではありません。同社は、フィットネスバイクに向けて、月額39ドルで、フィットネスの動画を配信しており、自宅にいながらレッスンを受けられるようになっています。

一流インストラクター陣やアスリート、芸能人が参加するこの動画がとにかく人気で、動画番組見たさにフィットネスバイクを購入する人もいるらしい。(動画視聴のみのサービスもあるそうですが)

インストラクターは、性別、年齢、人種など様々なタイプがいて、多様なアメリカ社会の状況に応じています。

また時間を決めてライブでレッスンを受けられる番組もあり、大勢の人が同じ時間に運動をする場面もあります。

その際には、ユーザー同士でコミュニケーションをとれるようになっており、お互いに励ましあったりするようです。

いまは、ペロトンは一種のブームになっていて「宗教的だ」という評価さえあります。

要するに、ペロトンにとって、2千ドルのバイクが、カミソリの柄です。月額39ドルの動画配信が、替え刃の部分にあたります。

先ほどの、ジレットモデル成立の条件でいうと

1.フィットネス、ヘルスケアという継続需要がある。

2.付加サービスが動画配信なので、変動費が小さい

3.2千ドルのバイクが入口となっていること、ユーザー同士のコミュニティがあることから、他社へ切り替えしにくい

となり、うまく考えられています。

ちなみに、ビジネスの中心は、動画配信やファン同士のコミュニティですから、この部分に対する投資が、成功の肝となります。これを単なる付加サービスと捉えれば、事業は大きくなりません。ペロトン側は、よくわかっていることでしょうが。


このように、IT技術が進展することで、実は、古典的なビジネスモデルが導入しやすくなっています。

特に、ジレットモデルの有効性は、いまも衰えていません。

今のビジネスをを進化発展させようと思う人、これからビジネスを始めようと思う人は、ぜひ、このビジネスモデルを研究し、導入を検討していくべきだと思います。






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